ショートエッセイ#30「爺の初夢」
- 2025-09-29
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爺の初夢
高齢になると体が弱くなる。さまざまな病気にかかり易くなる。そんな病気のなかでも怖れられているのは、さまざまな感染症だ。またアルツハイマー型認知症だ。 そういった視点で、国を挙げて、世界を挙げて医薬品開発研究が推進されてきて、ワクチンであるとか、また有望な医薬品が市場にでてきています。 しかしこれら最新の医薬品は高価で、健康保険財政に困難な問題を突き付けているのも現実です。
そんな状況にあって私がながく交流してきた1人の研究者が、「高齢者に多く発症する疾病については、医薬品開発研究に飛びつくのは考え物だ。まず高齢になったらなぜそういった病気にかかり易くなるのか、そういった体の老化の仕組みを解明する研究を先行させるのが本道なのだ」と言い続けてきました。(レナードヘイフリック. 人はなぜ老いるのか. 今西二郎ら訳. 三田出版会(1996). Hayflick. L. Biogerontology, Published on line 14 Oct. 2020)
しかし、医薬品開発であれば研究が利益につながります。莫大な健康保険資金を供給している政府、医薬品開発を使命とする製薬会社、そして研究費がなければ生活できない基礎研究者、三者の利益が重なって、医薬品開発を先行される研究が優先されてきたといっていいでしょう。
ところが近年、新型コロナウイルス(SARS-Cov-2ウイルス、以下コロナと省略)による感染でなぜ高齢者に死亡者が多いのかを研究してきた成果から、高齢者に特長的な体質の変化がこのウイルスに感染した際の生死の分かれを運命づけていることを示唆する研究成果が蓄積しつつあります(例えばSchmitt,CA et.al. Nature Reviews 23:(2023)251).
コロナに感染しても子供は殆ど発症しないのに、高齢者はしばしば重症化し、死亡例もすくなくない。なにか高齢者には子供に潤沢な機能が失われているのではないか。まずそう思うでしょう. しかしこの総説が注目しているのは逆の見方です。高齢者には若い人よりも敏感に感染に対して反応する細胞が増えている。このことから、老人の体質はただ細胞機能が衰えた体質なのではない。若い人と異なった体質になっているのだ、との見方を取っているのです。
そうであれば、治療の方法も医薬品開発の視点もまったく逆転するでしょう。
たとえば、従来は成人対象と子供対象との臨床試験は別々にしなければならないことは知られていましたがさらに高齢者に対する臨床試験ももう一つ別に行うことが奨められるでしょう。
また市民視点からいえば、薬に飛びつく前に、自分の体質の変化を見抜いて、日頃の生活に反映させる工夫が主要課題になるでしょう。高齢者が活躍していることがどれほど社会を豊かにし、また奥行の深いものとさせることか。それを夢見て、hascrossはまた本年も健康科学に関する情報提供につとめます。
20250118 hascross 松村