ショートエッセイ#1「健康科学セミナーを開催して思うこと」

一昨年夏以来、ご参加下さる皆々様のご興味に支えられてセミナーを続けてまいりました。回を重ねるごとに、このような形でのセミナーの意議と責任の大きさを感じています。

昨今、多くの健康科学研究者は大学や研究所、病院、製薬・食品企業等に所属していて、その成果は主に国際的な学術論文に発表されています。学術情報交換にはますます国際語が使われるようになり、一般市民との直接の接点が徐々に失われつつある状況を感じております。 結果として、市民との接点はテレビなどの大衆情報メディアが介在する形や、科学技術の経済的な最終産物、すなわち食品・医薬品、治療機器や技術といったもの、を介する傾向が強まっております。

しかし現実問題として、科学者が生み出す知識情報の大部分は、一足飛びに市民の希望をかなえるようなものでもなく、また販売される医薬品、食品素材、あるいは機器等も、ただ利用すればよいというほどに完成したものでなくて、まだまだよく分からないもの、諸刃の矢のようなもの、として市場にでてくるものも少なくない、というのが現実であろうかと思います。

実際に多くの医薬品や食品が、ある国では認可され、他の国では認可されておらず、それらが市民生活にどのような結果を生み出すかは数十年先でないと分からないことも多々あります。一方で、リスクあっても市民にとどくようにすることも進歩する社会にとっては不可欠なことです。そこで市民に自己責任をともなう判断が求められているといえましょう。

このセミナーでは、事実として発見されたことと、理論(仮説)として提唱されていることを判別しつつ、日本語での情報提供を重視して、引き続き皆々様がご自分のお考えを育てていただけるように努力する所存です。引き続きのご支援、ご鞭撻をよろしく御願いいたします。
松村外志張 hascross たより15号 (20190101)に掲載