ショートエッセイ#19「われらの健康を支えている人体組織とどう向き合う」

人体の臓器・組織・細胞(以下組織と省略)を生かしたまま体外で取り扱うことにより、その働きの解明から栄養学など、健康を支える知識が獲得されてきたばかりか、移植医療から検査器材、医薬・医療品の製造に至るまで、健康・福祉に大きく貢献しています。競泳の池江璃花子さんが骨髄幹細胞移植により復活した後にも取上げた通りです(便り25号20210306)。
移植のように個別医療となる場合もありますが、一片の組織が広く万人の健康を支える場合もあります。小児麻痺の病原ウイルスが培養ヒト細胞に感染することがわかって、ウイルスの検出法とワクチン製造法が編み出され、この恐ろしい伝染病に打ち勝ったのが歴史の始まりでした。いまコロナ禍との戦いでも、ヒト組織は大きな役割を果たしています。

ヒト組織を自ら提供しようという意思を抱いている市民は決して少なくないのですが、どうゆうわけかわが国では先進欧米諸国と比較して移植希望者の要望になかなか応えられず、研究分野や産業分野では海外からの提供に頼っているのが実情です。その実情を分析し、問題点を探り出し、市民参加で問題を解決できないか検討する会をさる5月22日に開きました。

hascrossとして始めてのオンライン会議でしたので不手際もありましたが、医療、倫理・法律、生命科学・工学分野の先生方の出席を得て2時間にわたる熱心な会議となりました。ご参加の先生方ならびに視聴者各位に深く御礼申し上げます。

現状分析では、移植医療や国内生産の件数は少ないが、技術・研究分野での水準はきわめて高い。一方、ヒト組織を取り扱うさまざまな分野を連携する上で求められる倫理原則の確立や法整備の面での遅れが指摘されました。

解決にむけての市民参加のあり方として、①選挙に際して問題の解決についての考えを候補者に問い、回答をご自身の候補者選択の参考とすること、②すでにお考えをお持ちの方には臓器提供意思表示カードに自由な意思表示を行うこと、をhascrossから提案しました。検討会は討論者とあらかじめ登録した視聴者のみによるクローズドな会でしたので、提案への注意点の指摘も含めて市民の皆々様に参考としていただけるところが多々あったと思います。

2回目の討論会を9~10月に開催し、さらに解決策について討論する予定です。ただいま第1回の検討会の討論内容を書き起こしています。当日のプレゼンスライドとあわせて次回の討論会視聴希望者に提供させていただく予定です。本テーマ最終討論会となる第2回は詳細決まり次第、ホームページ等でご案内差し上げます。

(20220618 松村記)