ショートエッセイ#27「紅麹問題」
紅麹問題にどう対処する? 科学か制度か
市場にでた紅麹の一部の製造品の使用者のなかに腎障害、さらには死亡者がでた。
製品に毒物が含まれているとの嫌疑がかけられ、ニュースは国内外を駆け回っている。
この間に製造販売業者が事態を公表するまでに2か月もかかったことが非難されている。業者は製造品の一部に予想外の物質が含まれていたことは突き止めていたが、これが原因であるとの科学的な根拠が見つからない段階での公表をためらっていた。調査に入った厚生省がはじめてその疑惑物質名を公表した。
疑わしい物質があるとすれば、それを特定し、作用機序を解明する科学的研究は必要だ。しかし解明できるかどうか、原因が他にあるかどうかは分からない。こと健康に関するかぎり、科学は万能でない。短時間のうちに科学的結論までもっていけるとは限らないことに覚悟が必要なのだ。とすれば市民として、自分達はパニックなんかにならないから、少しでもエビデンスがでれば、早く公表してくれ。みんなで解決していく道をとるんだ。と言えるかどうかだ。
みんなで解決していくということはどうゆうことなのか。今回の疑わしいという物質(プベルル酸)につい
ても、公開されてみれば多くはないが詳しい研究グループがあることが分かった。しかも国内に。
食品による被害はいまに始まったことでない。過去の例でいえば、食用油製品が次世代におよぶ甚大な障害を生み出してきているカネミ油事件、サプリメントとして米国に輸出されたアミノ酸製品が38名の死者を含む多くの被害者をだしたトリプトファン事件などを記憶しておられる方もあるだろう。
この2つの事件は全く異なる経過をたどった。カネミ油事件では混入した原因物質(PCB)も障害の発症にいたる科学的な裏付けも明かとなった。しかし現在にいたるまで、障害者は引き続き苦しい立場におかれつづけている。一方でトリプトファン事件では疑わしい混入物質(エチレンビストリブトファンとフェニルアミノアラニン)が明かにされたものの、これらが障害の原因であるとの科学的証拠固めは現在までできていない。むしろ原因は別にあるとの見方が有力である。
にもかかわらず、被害者側と加害者側との間での和解が成立している。当時米国ではすでに製造物責任法(PL法)が公布されていた。カネミ油事件は我が国にPL法の必要性を痛感させることなり、立法に結び付いた。
そこで我が国で現在、どのくらいの健康食品事業者がPL法にもとずく損害賠償責任保険(PL保険)に加入しているだろうか。探したら「食の安全・監視市民委員会」が見つかった。この委員会が業界上位55社にアンケートしたところ、29社から加入しているとの回答があったという。いま問題となっている紅麹製造販売元は幸い加入している会社のひとつだった。サプリを購入するならば、製造元がPL保険に加入しているかどうかも判断のひとつだろう。
2024/04/04 松村記