ショート エッセイ#6「ヨモギ研究」
ヨモギの研究からかいま見る世界
痛み止め作用があることが古くから知られている薬草にヨモギがあります。1月29日、2月1日の痛みに関する健康科学セミナーでの話題の一つとして、ヨモギの痛み止め研究の進歩をたどっています。その中で、変形性関節症に対するヨモギ軟膏の効果を試験した本格的な研究報告がイランのハマダーン大学から発信されていることを知りました。またパキスタンからも、痛みに対する感受性を抑えるヨモギの効果を評価する実験的な研究が報告されています。
発展途上国では、こういった基礎的な研究を進めるにはさまざまな困難がきっとあるでしょう。また一方で、高価な医薬品を入手することにも困難があるでしょう。そんな中で、身近にある薬草に注目した、地道な研究が進められています。そしてそういった研究の結果が、政治的あるいは地理的な障壁を乗り越えて世界に発信されていることって、感動的でないでしょうか。
付け加えれば、健康科学の分野でヨモギを取り扱った英文総説で私が見つけた最も新しいものは、2019年6月発行で、アジアからインド・イラン・日本の3ケ国、西欧2ケ国、東欧2ケ国、北米大陸2ヶ国の研究者の共著論文でした。そこには日本のヨモギのことも、草餅にまで言及して紹介されていました。
世界が政治的に分断され、また経済的に囲込まれて各地に紛争が絶えない昨今にあって、科学者がそれらの壁を乗り越えて世界じゅうで情報を共有している。その一つの実例がここにありました。
開かれた世界にとびだして活躍するために、スポーツ選手を目ざすのもいいでしょう。ただここは人と人との競争の世界です。ヨモギの研究をたどりながら、競争の世界とは無縁で、自然とともに生きる科学の世界の広さをあらためて感じたしだいです。
松村外志張
ヘルスアンドサイエンスクロスロード(hascross)副店主 理学博士 hascrossたより(20200109)のエッセイコーナーに掲載