ショートエッセイ#28「豆博士へのエール」

豆博士へのエール

ポケットに手をいれてアマガエルをとりだしてくる子。石ころをひろって、これは花崗岩だよと教えてくれる子。磨き上げた地下鉄駅の円柱を覗き込んで、化石を探している子。学校でマメハカセとかマメバカセとかあだ名が付いている子。どのクラスにも一人ぐらいはそんな子がいるでしょう。
小学生の君、将来何になりたいの? と聞かれてなんと答えますか? アンケートの結果では、男子ではサッカーや野球の選手や監督など、アスリート関係が断然上位。チラホラお医者さんとか会社員とか、またユーチューバーなんかも上位に入ってる。女子ではお医者さん、学校の先生、保育士さんや薬剤師さんが上位。中学から高校へと進むとアスリートは減って公務員、先生、お医者さんなど、社会の役にたって着実な職業を志望する子供がふえている。
そんな中で科学者とか研究者になりたい、という子供や学生さんはトップテンにはなかなか見つけられません。それも当然でしょう。安定した職業についてほしいという親御さんの気持ちは理解できます。
しかし、ここ十年間ほど、世界では予想もつかなかったことがぞくぞくと起きています。コロナのパンデミックばかりでなく、気象現象も、いわゆる少子化といわれる現象も、またなんどもなんども新薬ができたといわれながら増え続けているアルツハイマー型認知症も、ここ数年で科学的にも相当理解できる時期にはきていますが、当初は分からないことだらけで、そのなかで今見直してみれば見当はずれの対策も随分なされて、勿体ない命も沢山うばわれました。
そんな激変の時代、豆科学者から育った生粋の科学者が求められている、と私は感じるのです。いま世界の中核にあって医療の基礎を支えている遺伝学と情報産業の基礎を支えている量子物理学の起源をたどると、それぞれ貧農の子として生まれたメンデルと誰にも理解されない学説を振り回す郵便局員アインシュタインにたどりつきます。
メンデルがどうして遺伝学を創始することができたのか、そこにはそんな貧乏な子供の才能を見つけて可愛がり、育てた寺院の司教が、またアインシュタインについても、変人郵便局員の学説のなかに真理を認めてゆるがなかった大科学者がいたことが忘れられません。
私自身、そんなマメバカセのひとりでした。理科は満点、英語は落第点といった子供でしたが、幸い学校の先生が寛容で成績は非公開だったので、知らん顔して友だちと遊ぶことができました。また中学には理科準備室、高校には化学準備室があり、理科の先生も化学の先生も私には自由に準備室に出入りさせてくれて実験などをさせてくれたのです。いまだったらあぶないということで許可にならなかったでしょう。
そんな私が上に触れたような自分の見つけた真理のために本気で戦う科学者に会うことができたのはもっと後になってからですが、ともかく、なんとか科学者の道をたどることができたことのもう一つの要因は、私が5人兄弟の末っ子で、まあ親にとってみれば好きなようにやってくれればそれでいい、と思ってくれていたことも幸いしたということでしょう。
いま君たちは一人っ子、あるいはたかだか二人兄弟姉妹。親の期待を一身に背負って生きています。だから身分の安定しない科学者になるのは親としては不安でしょう。
でも、昔よりも科学者にすこしはやさしい時代にはなってきているとは思います。科学者になりたいとおもったら、ためらわず自分が好きな分野で研究をしている科学者に、どんな大先生でも臆することなく訪ねることを勧めます。励ましてくれて君が道をひらく助けになってくれる先生がきっといる、と私は思います。
2024/07/07 松村記

ショートエッセイ#27「紅麹問題」

紅麹問題にどう対処する? 科学か制度か

市場にでた紅麹の一部の製造品の使用者のなかに腎障害、さらには死亡者がでた。
製品に毒物が含まれているとの嫌疑がかけられ、ニュースは国内外を駆け回っている。
この間に製造販売業者が事態を公表するまでに2か月もかかったことが非難されている。業者は製造品の一部に予想外の物質が含まれていたことは突き止めていたが、これが原因であるとの科学的な根拠が見つからない段階での公表をためらっていた。調査に入った厚生省がはじめてその疑惑物質名を公表した。
疑わしい物質があるとすれば、それを特定し、作用機序を解明する科学的研究は必要だ。しかし解明できるかどうか、原因が他にあるかどうかは分からない。こと健康に関するかぎり、科学は万能でない。短時間のうちに科学的結論までもっていけるとは限らないことに覚悟が必要なのだ。とすれば市民として、自分達はパニックなんかにならないから、少しでもエビデンスがでれば、早く公表してくれ。みんなで解決していく道をとるんだ。と言えるかどうかだ。
みんなで解決していくということはどうゆうことなのか。今回の疑わしいという物質(プベルル酸)につい
ても、公開されてみれば多くはないが詳しい研究グループがあることが分かった。しかも国内に。
食品による被害はいまに始まったことでない。過去の例でいえば、食用油製品が次世代におよぶ甚大な障害を生み出してきているカネミ油事件、サプリメントとして米国に輸出されたアミノ酸製品が38名の死者を含む多くの被害者をだしたトリプトファン事件などを記憶しておられる方もあるだろう。
この2つの事件は全く異なる経過をたどった。カネミ油事件では混入した原因物質(PCB)も障害の発症にいたる科学的な裏付けも明かとなった。しかし現在にいたるまで、障害者は引き続き苦しい立場におかれつづけている。一方でトリプトファン事件では疑わしい混入物質(エチレンビストリブトファンとフェニルアミノアラニン)が明かにされたものの、これらが障害の原因であるとの科学的証拠固めは現在までできていない。むしろ原因は別にあるとの見方が有力である。
にもかかわらず、被害者側と加害者側との間での和解が成立している。当時米国ではすでに製造物責任法(PL法)が公布されていた。カネミ油事件は我が国にPL法の必要性を痛感させることなり、立法に結び付いた。
そこで我が国で現在、どのくらいの健康食品事業者がPL法にもとずく損害賠償責任保険(PL保険)に加入しているだろうか。探したら「食の安全・監視市民委員会」が見つかった。この委員会が業界上位55社にアンケートしたところ、29社から加入しているとの回答があったという。いま問題となっている紅麹製造販売元は幸い加入している会社のひとつだった。サプリを購入するならば、製造元がPL保険に加入しているかどうかも判断のひとつだろう。
2024/04/04  松村記

ショートエッセイ#26「激震で始まった新年にあって」

激震で始まった新年にあって

私どもの新年は激震に迎えられました。元日の午後、里帰りから戻ろうとして乗車した新幹線が新潟駅から発
車しようとしているその数分前に揺れが始まりました。
その瞬間に新潟市内のすべての鉄道は運転を停止しました。やむなく実家に戻った翌日、近所を散歩しました。西区の一部でしたが、その辺りでは家屋の倒壊といった破壊的な状況はみられず、被害は少ないのかな、と思いながら歩いていて、大変なことが起きていることに気がつきました。それは道路の破壊です。これもそれほど目立つというほどではありません。しかし道路のあちこちに亀裂が入り、いたるところで亀裂から液状化した土砂があふれ出していました。別のところでは亀裂の下が空洞になってアスファルトの路盤が宙づりになっていました。これでは安心して車の運転もできません。案の定、コンビニに入ってみると弁当、おにぎりといったできたて食品の売り場はガランドウです。お客さんがしぶしぶ冷凍食品を探していました。聞いてみると「入荷しません。空のままで営業を続ける店もあるし、閉店している店もあります」というのです。しかし、別の食品店に入ってみるとシッカリ弁当を売っていました。きっとお店に製造設備を持っているのでしょう。
震源地能登はどんなにかと思いをはせ、またこれがお店のある横浜の南区永田だったらどうなるだろうと思いながら二日の午後、漸く動き出した満員の新幹線で横浜に戻りました。
私の感想はこうです。大地震でも、多くの被害は局所的のようです。最近は住宅も丈夫にできています。しかしちょっとした道路の破損などでもう地域は孤立し、生活は難しくなるでしょう。流通サービスへの依存度の高い最近の都会生活では誰もが大きく影響を受けるでしょう。そんなとき、なにより役にたつのはご近所づきあいなのではないでしょうか。私は日本国内でさまざまなところに住みましたが、永田にはご近所づきあいがある。
町会が元気。消防隊も元気。お祭りも元気。坂道が多いこの町はお年寄りも足腰丈夫。きっと災害に強い町だ、と感じます。
そんななかで私どもハスクロスはなにができるか。個人個人の栄養バランスに気を配って、しかも美味しい。
そんなメニューやお菓子の創作をつづけていますが、加えて今年は災害に強いメニューもご紹介できるかもしれません。科学的に検討します。どうかご期待ください。
2024/01/04  松村記

ショートエッセイ#25「コロナワクチン接種判断へのご参考」

コロナワクチン接種判断へのご参考

新型コロナ、規制がなくなり活気が戻ったところで感染が増え、安心なりません。ワクチン接種の再開です。打ちますという方が多いなかで、躊躇される方や打ちませんと明言される方もあります。「現時点でワクチン接種後に遷延する症状(いわゆる後遺症)が起きるという知見はない」と厚労省は明言しています。「–が起きると断定でき
る知見はないが、起きないとも断定できない」ということでしょうか。
ワクチンは感染した場合の重症化を防ぐばかりか、社会からウイルスを除去する最強の手段です。社会の為にいいとはいえ、苦しい思いをしてまで接種しなければならないのかと思う方もあるでしょう。
たとえば北海道の藤沢明徳先生という方がインターネット上で、接種は勧められないと言っておられます。コロナワクチンには打つとかえってウイルス感染を憎悪する効果(ADE)がある場合がある。また変異型の抗原に対するワクチンを打っても、最初に打った原型型の抗原に対する抗体しかできず(抗原原罪効果)、変異型コロナに対して効果が期待できない。小さな子供はコロナに感染しても2日も熱がでれば軽快するのだから、副作用や後遺症の心配をするまでもなく、
打たない方がよい、とのご意見です。藤沢先生の言われる心配が実際に起きるのか、またもしその心配
があるとして回避できないのか。参考情報を提供させて頂きます。
まずADEも抗原原罪効果もコロナウルイスの感染について知られており、コロナワクチン接種にも一部あることが報告されています。
ただしワクチンにはさまざまな種類があり、マイナス効果に注意すべきものとその必要が少ないものがあります。マイナス効果が一部に認められていても、総体として効果が高く、大多数の人には安全性に問題がないことが証明されたものだけが上市されているのです。
一般にワクチンには不活化ワクチン群、生ワク群、そしていまコロナに対して普及している核酸型(DNA-またはmRNA-)ワクチン群の3群あります。それぞれの群にウイルス抗原(またはその遺伝子情報)すべてを含む全体型ワクチンと一部のみを含む成分(コンポネント)ワクチンとがあります。
不活化ワクチンは抗原を呑食細胞に呑食されやすいように加工したワクチンで、抗体産生(液性免疫)を誘導しますが、抗体なしでウイルスと戦うリンパ球を活性化する力(細胞性免疫力)は弱く、その分生ワクや核酸ワクチンよりもワクチン効果が低い場合があります。
一方で生ワクや核酸ワクチンは、ワクチンを体細胞に侵入させてウイルス抗原を発現させるタイプで、発現した体細胞(コロナワクチンの場合は筋肉細胞)がリンパ細胞によって攻撃されて傷害を受ける可能性があるのが弱点です。さらに体細胞のなかで発現・生産された抗原タンパク質が体液中に流出して毛細血管や他の器官の細胞に重篤な傷害を与える可能性が否定できないという弱点もあります。
成分ワクチンはウイルス感染に必要な抗原部分(またはその遺伝子情報)のみからなり、全体型ワクチンと比較してADEの怖れが少ないと期待できるでしょう。また、生ワク以外の2群では投与後しばらくするとその感染防御活性が弱まるいう弱点があるのに対して、BCGや種痘のような一部の生ワクは、一度打つと長期間活性が保たれるという利点があります。
社会では、数ヶ月ごとに新しい型のコロナウイルスの変異株が広がり、その度ごとに変異型コロナに対するワクチンを投入するという、いたちごっこが続いています。研究段階では何種もの型に効果のある多価ワクチンや長期間活性が維持されるコロナ生ワクが報告されていますが、いまのところすべて実用化以前です。
今回のワクチン投与では、2種類のmRNAワクチンと1種類の不活化成分ワクチンの選択肢があります。そのどれも定められた基準内での安全性・有効性は確認されています。しかし藤沢先生が指摘されるような希な場合について危惧するとすれば、不活化成分ワクチンとmRNAワクチンのどちらを選ぶか一考の余地はあるでしょう。
コロナと人間は、社会としては共存もあるかもしれませんが、個人としては総力戦です。逃げ回っているだけではなかなか勝てません。ワクチンはそんな総力戦を圧倒的に有利に導きます。栄養も大切であることは先にエッセイ(お便り#34号)でお話しました。
副作用については一過性の発熱のように大事に至らないものが大部分とはいえ、アナフィラキシーショックのように厳重注意のものもありますから、皆様注意しておられることでしょう。一方後遺症である可能性を否定できないとする事例が少数とはいえ学術報告されていますので、近々にもご紹介して皆様の判断の参考に供します。ホームページを訪問ください。因果関係が疑われるが確定できない場合には政府は動けないとすれば、市民間での互助活動が大切なのではないでしょうか。利益を受けるのもお互い様なのですから。
2023/10/08  松村記

ショートエッセイ#24「糖質・脂質の過剰摂取からどう脱出する?」

糖質・脂質の過剰摂取からどう脱出する?

羊羹、和菓子、洋菓子、アイスクリーム--、甘味のお菓子は一時のくつろぎに欠かせません。オニギリ、ドーナツ、ポテトフライ、菓子パン、など手軽なスナックはファストフードやコンビニの上位売れ筋を独占しています。
研究によると、人間には油脂と糖質を組み合わせた食品をほかのどんな組み合わせの食品よりも高値で買ってしまう本性があるとか。結果として、最愛の子供に与えた糖質・脂質リッチな食生活習慣のつけを本人が大人になってから払うという流れを押しとどめることがなかなかでないように見えます。
そこでさまざまな人工甘味料や加工油脂が開発され、現在も大量に使用されています。詳細は省略しますが、これら人工的な食品素材については問題点が指摘されているものが多数あります。許可になっているのになにが問題なのか。食品の安全性は実験動物を用いて確かめられる場合が多いので、寿命の長い人間のような生物での安全性は何十年という時間が経なければ分からないこともあるわけで、その間は危険性が証明できないということで禁止することもできずに販売されていることがあるのです。そこで市民としては、安全性に問題が指摘されているかどうかを調べて購入することが奨められますが、なかなか大変なことです。
当店は合成甘味料は一切使用しておりません。合成甘味料を使わなくても甘味のある天然素材を選ぶことで解決できるとの考えからです。天然の甘味成分のなかでは、人体にも含まれる天然の炭水化物であるキシリトールとイノシトール、モグロシドという甘味成分を含む羅漢果の抽出物を使用しています。羅漢果については、安全性試験がなされていて高く評価されているものの、完全ではないとの指摘もあり、注意深く使用しています。
天然物由来の甘味料であっても、砂糖、果糖液糖の使用は避けています。理由は砂糖にも果糖液糖にも、果糖(フルクトース)を多量に含んでいるからで、果糖は身体に入ってからの反応性が、澱粉に由来するブドウ糖にくらべて強く、蛋白質と結合してグリケーション生成物(ヘモグロビンA1Cなど)を作りやすい性質があり、また妊娠中の胎児への影響が心配されることなど理由からです。
当店ではすべてのお菓子類について糖質を減らし、総体的に蛋白質や繊維質を増やして、間食にも栄養バランスを達成する方向で工夫を重ねています。それらの工夫のなかで最近重視しているのが食品にもともと含まれている澱粉質を糖化することによって甘味を引き出す工夫です。糖化には糖化酵素や麹菌が使えます。澱粉質が糖化されるときにできる糖は麦芽糖という種類の糖で、この糖は果糖にくらべて酸化されにくく安定で、甘味は鋭くはないが、なにか昔を思い出させるような柔らかな甘みがあります。麹小豆や麹大豆は砂糖なしで当店の発酵あんこや発酵黒豆となり、お菓子に取り入れています。また麹タマネギは料理の下味になります。
脂質としてはバターとココナツ油を最少量使用し、一般のサラダ油など不飽和脂肪酸を多量に含む植物油は使用していません。バターやココナツ油は中鎖飽和脂肪酸を多く含み、生体内で代謝されてエネルギーになりやすく、空気中の酸素で酸化されて変質することの少ない利点があります。その他栄養学的にいえば、ω3不飽和脂肪酸、ω6不飽和脂肪酸が必須ですが、酸化しやすいので付け油としてのみ食事に供しています。
糖質の過剰摂取からどう脱出する? 当店の戦略は甘い物を食べないということではありません。食べます。結構沢山食べ
ます。しかし食べる甘みの一部は天然甘味料に置き換え、大部分はご飯などの澱粉に由来する炭水化物です。食べ過ぎたときにはご飯を減らします。また糖質と蛋白質やビタミン類、繊維質などの栄養成分を一緒に摂取するよう注意しています。勿論これらの栄養成分は食事で十分摂取されますように。そして皆さんの最愛のお子さんやご家族にも、そういった食品を選択されたり、あるいは手作りで差し上げることをお勧めします。
2023/06/29 松村外志張

ショートエッセイ#23「総理大臣の科学、専門家の科学、市民の科学」

総理大臣の科学、専門家の科学、市民の科学

子供のころ、なにになりたい?と聞かれ、科学者になるんだといった記憶がある。大学では念願の理学部に、そして大学院に進むにつれて、教育の様子が変わってきた。中学・高校で習う科学には異説というものがほとんどない。人名もあまり出てこない。ところが大学院で触れる原著論文は人名であふれている。そこでは著者が実験や調査を行って獲得した知識が、いままで誰も報告したことがない新知識であることが主張され、また誰かが提唱している学説を証左するか、否定するか、あるいは新学説を必要とするか、といった考察が述べられている。つまり先端にある科学の世界は、断片的な科学的新知識とともに、検証がまだ不十分な多様な学説よりなっていて、日々更新されている状態なのだ。
6年前に給与を頂戴する身分を辞し、日常生活に関心を深めるようになった。そこでは、さまざまな学説があってまだ決着がついていないはずの事柄が、あたかも科学者が一致して認めている科学的真実であるかのように流布している例が沢山あると感じた。農薬や食品添加物の安全基準などであるとか、最近の例でいえば、コロナの予防や重症化を避ける効果がある食品やサプリメントがあるとする宣伝についてはすべて科学的な根拠なしと否定する見解がいくつかの公的機関から出されていることがある。このこともあってかマスメデイア等ではこの話題をあまりとりあげていないようであるが、科学の世界では真剣な研究が進められていて、研究途上であるといっても期待できる候補物質も存在するのが現実である。
科学的な議論が煮詰まらずとも、判断を示すことは、公的機関の立場からいえばやむを得ない場合もあろう。判断力に欠ける市民が悪質な宣伝に惑わされるよりも政治的な判断を与える方が害が少ないという判断もあろう。しかしその場合は、判断が政治的なものであることを明かにすることが大切であろう。
hascrossでは、なによりも市民各位がご自身で判断する力を磨いていただくことが第1。そのために科学の心得と情報とを提供するという方針でセミナー等を行ってきた。
きて、本年2月23日に地球環境と生物多様性危機への対応に関する現況を把握すべく、この分野の専門家であるマイケルノートン教授を迎えてオンラインセミナーを開催した。マイケルノートン教授は、欧州EUの政策決定を科学者の立場から支援する諮問組織(EASAC)の地球環境プログラムディレクターである。EUを支援する組織であるとはいえ、EUその他の国家からの経済的支援は勿論、企業からの支援も受けとらない独立組織で、欧州各国の科学アカデミーから選出された30名ほどの専門家と、それら専門家を無償で支える多数のボランティア科学者から構成されている。その報告書はEUは勿論、国連に対しても影響を与え、日本語にさえ翻訳されている。この点は我が国で同様な働きが期待されている日本学術会議(The Science Council of Japan)と対照的である。後者は総理大臣に任命権のある210名の科学者と年間10億円の予算で活動する巨大な政府機関であって、沢山の報告書を出しているが、その報告書があまり世の中で参考とされていないらしく、改廃が取り沙汰されているとも聞いている。
総理大臣が、難しいことなので専門家におまかせします。どうしたらいいんですか? といえればこんなに楽なことはないだろう。しかしコロナも、そして地球環境も、いまどきの大問題について、学説を建てて検証を進めるというアプローチを取っている科学者に、科学以外のさまざまな状況判断も含めた時事判断が求められるる政治の役割を担わせようとすることは見当違いであろう。
EASACが出している報告書は、専門科学者の立場から分析を行って、政策責任者にたいして説得力のある科学的な情報と考察を提供しているからこそ、責任をもって対処しようとしている政策決定機関が参考に供しているのではないか。そして科学を含めて、あらゆる条件を勘案して物ごとを決めていかなければならない総理大臣に求められる態度こそ、市民一人一人に求められるそれと同様なのではないだろうか。皆様どのようにお考えだろうか。               2023/3/18 松村外志張

マイク・ノートン先生を囲む談話会

マイク・ノートン先生を囲むオンライン談話会

地球温暖化と生物多様性危機との戦い ポスターpdf

2023年2月22日にマイケル・ノートン先生を迎えて開催した下記オンライン談話会の文書記録です。
当日いただいた質問、ご意見には追加調査して、46ページの冊子にまとめました。
ダウンロードは無料です。ご意見、ご感想いただければ幸いです。
hascross地球温暖化セミナー日本語版 第1部 hascross地球温暖化セミナー日本語版 第2部
hascross Global Warming seminar Pt1  hascross Global Warming seminar Pt2

印刷物をご希望の方は日本語、英語とも各2,200円/1部で郵送いたします。
2部以上同時に購入される方は2,000円/1部です。

ご希望の方は「問い合わせ」ページより送付先のご住所を記載の上ご連絡ください。
お支払いは銀行振込またはクレジットカードをご利用いただけます。

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2月22日(水) 20時~21時30分 ポスターpdf

科学と政策の連携分野で活躍されるマイク・ノートン先生(Prof. Michael G. Norton,経歴は後記)が英国から来日されました。この機会に先生を囲む談話会を提案しましたところ、御快諾いただきましたので、ご案内さしあげます。
今回の談話会では、長年にわたる先生の日本滞在の印象、地球規模の問題の解決への挑戦、地球温暖化と生物多様性などに関する話題を取り上げ、先生のお話を聞きながら質問し、また意見を交換するといった形で2月22日(水)午後8時から1時間半ほどの開催を予定しています。

ノートン先生は日本語が堪能です。こちらは一般市民ということを理解いただいていますから、ナイーブな意見をぶつけていただくこと、大歓迎です。視聴だけでも結構です。

視聴ご希望の方にはURLとパスコードをお知らせしますので「お問合せ」ページからご連絡ください。

また、地球温暖化と生物多様性に関するノートン先生の講演がYouTubeに公開されています。

YouTube
https://www.kva.se/evenemang/policy-opportunities-for-reducing-climate-change-and-its-impact-on-planetary-and-human-health/

マイケル・ノートン教授の御経歴

ブリストル大学卒、化学の理学士・博士。1970-74年インペリアル・ケミカル社で化学研究に従事後、英国政府の科学サービス事業、特に海洋環境汚染の研究に8年間従事。1982年より4年間在米英国大使館科学アタッ シェ。1986年英国貿易産業省に入省、1989年英国議会に科学技術局を設立し助言サービスを提供。

1998-2004年在日英国大使館科学技術参事官。引続き東京工業大学教授として、イノベーションと持続可能開発分野を担当(2004-6年)。 2006年より信州大学教授、2012年東北大学教授、2015年ふたたび東京工業大学に戻り2018年まで同大学環境社会学理工学院非常勤特任教授。この間2015年より、欧州アカデミー科学諮問委員会(EASAC)の環境プログラムディレクターとして、プラスチックから気候変動に至るまで、科学と欧州政策の接点におけるEASACの活動を指揮して現在に至る。趣味は探鳥、来日するごとに私どもの千葉の菜園でともに農作業を楽しむ自然派です。

 

ショートエッセイ#22「少子化問題」

少子化問題、その解決策はどこに?

新年にあたり岸田首相は「異次元の少子化対策」と名打って金をつぎ込むぞ、だから少子化を食い止める策を出せ、と大臣に指示した。ご承知のとおり、これまでも少子化を食い止めるために、生殖医療の拡充、出産から子育てを助ける経済支援と環境整備など様々な努力がなされてきた。しかし減少の一途だ。

妊娠・出産の適齢期は20歳台(広くみてもまあ30歳代前半ぐらいまで)、ということは疫学的研究からの一般常識だ。受胎率、自然出産率、胎児の周産期死亡率、妊産婦死亡率、胎児・新生児の染色体異常のリスクと母体の年齢との関係研究からの結論だ。勿論、40歳すぎても健康な赤ちゃんをさずかる幸運な例は少なくない。医療技術が進んできている今、35歳すぎたらやめたほうがいい、ということはではない。しかし日本女性の平均初産年齢は2011年以来30歳以上が続いていることは厳然たる事実だ。つまり適齢期での妊娠・出産を阻んでいるなにかがあることは明らかだ。 とすれば、子供が生まれたら金を付ける、子育て環境を整備する、ということで問題が解決するのか。子供を育てようと思う頃にはとうに適齢期を過ぎてしまっているところで金をつぎ込むだけでいいのか? 適齢期に受胎・出産を許さない敵はいったい何者なのか。その本性を見抜けなくてこの戦いに勝てるのか?

そんな疑問を思うなかで、解決が迫られている。首相は大臣に考えろといっているのであり、私自身、大臣からよい解決策が生まれることを期待している。しかし大臣は市民が選挙で選んだ議員なのだから、解決策が失敗してもその責任を大臣のせいにすることはできないだろう。それが民主主義だとすれば、市民の1人としても考える責任があるのではないか、その気持ちで以下に愚考を吐露する。ご参考となれば幸いである。

いまどき、20代の若者は男女ともに多忙を極めている。次世代をはぐくむ適齢期だなどと考える前に、なんとか自分の求める自分になるために、すべての時間と能力をつぎ込め。自分も回りも考え方は一致している。そこで、高学歴の専門職を目指す。スポーツや芸能に全力投球する。また会社の社員となれば、将来の幹部となるために社員教育に集中する。成功には国をあげての喝采が送られるのだ。

ところで、子育てというのは自分以外の存在を認め、育成するということだ。ある程度自分の犠牲はやむを得ない。そういった気持ちでないとできないことだ。それが次世代をになう大切な生命であるとしても、いまを生きようとしている自分と競合する生命でもあるのだ。

それでは、意志もまた能力も発揮できない弱小な次世代の立場に立つ味方は誰だ。いままでの考えではそれは親だということになる。しかしいまや親はそんな次世代の命と競合する存在になってしまっているのではなかろうか。あるいは競合が起きないように、余裕ができるまでは出産を抑えようと考えている者が多いということなのではないのか。

それでどうする? 私が思ったのは、子供、あるいはさらに出産にいたる以前の胎児の段階からも、その生命の成長しようとする意志を助ける力を与えて、その力で敵と渡り合え、成長できる環境を作る、ということだ。

どんな力を与えるのだ。いくつか考えられるが第1選択は選挙権だ。妊娠したどこかの段階で、胎児に選挙権があると決めるのだ。誰が決める? 国会で議員が法律を作って決めるのだ。どうやって胎児が投票するのだ?その法律が決めた責任ある代理人が投票するのだ。多くの場合は親であってよいかもしれない。でも親がいなくとも、あるいは親が適任でない場合にも適当な代理人が選べるように法律で決めておけばよいのだ。

命が生まれ、成長する権利を求める票田ができれば議員は動く。本当に子供のためのさまざまな仕組みが作られていく。法律をつくるためにさしたるお金は無用だ。これできっと子供は育つ。子供は増える。そんな考えはどうだろう。

2023/01/13 松村外志張

ショートエッセイ#21「からだのいのち」

「からだのいのち」をめぐる話題と問題解決の道

からだのいのち? そうです。昔ならば人間は心臓が止まれば心も体もしばらくのうちに命を失うと考えたでしょう。しかし科学はそんな人間のからだの一部、「人体組織」といっておきましょう、がさまざまな形で生きつづけることを見つけ、いまその人体組織が私どもの健康を保ち、病気と戦かうための力をプレゼントしてくれています。 臓器移植や細胞移植のことは御存知かと思いますが、ワクチンなどバイオ医薬品の製造、環境や医薬品、食品に含まれるかもしれない有害微生物や化学物質の検出、培養容器のなかで組織を再生させて治療に用いる再生医療などに大活躍しているのです。

大切なことは、このように人体組織が活躍するためには、まずそれらが提供されなければならず、提供者としての市民の参画が必要不可欠だということなのです。

しかしわが国では、移植医療への臓器提供は勿論、研究や医療・保健衛生資材のための提供も、先進欧米諸外国と比較して極端に少なく、多くを海外からの提供に依存している、という状況があります。

hascrossに参画している松村が、ながく人体組織を取扱う生命科学研究に係わってきた経緯から、人体組織取扱いの成果と問題点の評価、ならびに問題解決策を討論する検討会を開きました。検討会は今年5月と10月の2回、それぞれ7~8名の識者をお招きして行い、市民の皆様にはオンラインで視聴いただきました。

参加下さった識者は、ここでお名前は出しませんが、医療、法学、社会学、バイオテクノロジー分野で実務、研究と教育に携わっておられ、またその未来について深く考えておられる方々です。

近々にも出版物として皆様におとどけできるように、ただいま音声の文字起こしの作業中です。作業中にも、識者先生方がこの会のためにいかに熱意をもって話題提供をされ、またお考えを述べて下さったかを強く感じ、深く敬意を表する次第です。これも、問題解決のためには、市民各位の参加と理解、そして判断が大きな役割を担っていることについて、識者各位が深く理解しておられることの現れだと思いました。

hascrossからも問題解決の為に市民の意向を反映させる方策を提案し、討論をいただきました。

録画視聴をご希望の方はhascrossのホームページを介してメイルアドレスとお名前をお知らせいただければ対応いたします。

2022/11/13 松村外志張

ショートエッセイ#20「コロナと栄養」

「コロナ接近戦で食事・栄養をどう役立てる?」

コロナ禍第7波。8月中下旬、横浜市内での市中感染率が週間0.7%に対して、家族内で感染する確率は10~40%だそうで、いかに家庭感染率が高いか驚きます。 感染を予防できたり、感染しても軽く済むような食事や栄養はないのでしょうか。

まず公的機関の見解を検索すると: 消費者庁のニュースリリース(20210625)では特定の健康食品を摂取することによる新型コロナウイルス感染や重症化の予防効果が実証されているものはありません、とのこと。 また(国)医薬基盤・健康・栄養研究所からの健康食品の安全性・有効性情報(20220823)では現時点で、新型コロナウイルス感染症に対する予防効果が確認された食品・素材の情報は見当たりません、と総括しています。新型コロナウイルス感染症対策本部からの20220617報告書にも栄養・食品にはなんら言及していません。

今度は栄養が重要だと指摘している方を検索してみましょう。香川栄養学園香川靖雄研究所長が発信されたエッセイ「実践栄養学で新型コロナウイルス感染症に対する免疫力を改善、20210518」が目にとまりました。 香川所長は栄養要素のなかでも特にビタミンDが不足しないように注意を喚起しておられる。 根拠として、ビタミンDが新型コロナウイルス感染の予防と症状緩和効果を示した臨床疫学研究例にも触れておられるが、加えてビタミンDが免疫細胞を活性化する働きについての科学的知見を紹介し、さらに最近の日本人にはビタミンDが不足しがちであることを指摘して、総合的にわが国での新型コロナウイルス感染についてビタミンDが予防、あるいは症状緩和効果を示すだろうと予想しておられる。

臨床疫学研究から新型コロナウイルス感染の予防あるいは症状緩和に対してビタミンDに効果があるとするものも効果がないとするものもあり、確証されていないとして評価しないか、あるいは証拠だては不十分だとしても、傍証を含めてその可能性は高いと予測するか、どちらも科学的考察として間違ってはいないでしょう。

それではあなたはどうします? このような見解の相反は、いままで幾度も繰り返されてきました。たとえば巨大台風とか高気温といった現象についても、多くの科学者が警戒する中で、気象庁は最近まで50年来とか100年来のといった表現で、正常な変動の範囲内にあるとの立場で報道してきたように記憶します。範囲外とする確実な根拠が見いだせなかったに違いない。しかし2020年であったかと思うがコンピューターによる精密な計算によって、正常な変動の範囲内での現象として説明することはもはや困難との気象研究所からの発表があって、ついに公式な報道でも地球温暖化によって起きている現象であることを容認した形になったようです。

科学は日進月歩で、そうこう言っている間にも、ビタミンD研究は進歩しています。骨形成への効果は古くから知られて来たことですが、免疫系への作用を認めた論文は私の知る限り2003年が最初で、以来この分野の研究は急展開していますが、一般書でこの進歩に触れているものはまだわずかです。またビタミンDのうち、キノコ由来のビタミンD(VD2)と動物性のビタミンD(VD3)とで免疫系への働き方が違うことが分かってきたのは、これも私の知る限り2020年から、さらにヒトのある種の免疫細胞への作用が、D3には認められるがD2にはほぼ認められないことを示す実験結果が報告されたは今年です。

とすれば、日本食品標準成分表にもあるようにD2と,D3とを区別せずにビタミンDとして進めてきた臨床疫学研究で感染防御効果を認めなかった場合があったとしても説明がつくかもしれません。

科学研究が瞬く間に問題に回答をだせるとは限りません。それでも次々に新しい知見も加わります。その成果をいかに読んで、将来の損失を最小に、成果を最大にと図りつつ生活に活用するか。相反する見解に目を配りつつ貴方自身が判断していくしかありません。その努力があなたやご家族の健康を最大限に生かすことになるでしょう。 hascrossがそんな貴方を支援できれば幸いです。

20220828 松村記

ショートエッセイ#19「われらの健康を支えている人体組織とどう向き合う」

人体の臓器・組織・細胞(以下組織と省略)を生かしたまま体外で取り扱うことにより、その働きの解明から栄養学など、健康を支える知識が獲得されてきたばかりか、移植医療から検査器材、医薬・医療品の製造に至るまで、健康・福祉に大きく貢献しています。競泳の池江璃花子さんが骨髄幹細胞移植により復活した後にも取上げた通りです(便り25号20210306)。
移植のように個別医療となる場合もありますが、一片の組織が広く万人の健康を支える場合もあります。小児麻痺の病原ウイルスが培養ヒト細胞に感染することがわかって、ウイルスの検出法とワクチン製造法が編み出され、この恐ろしい伝染病に打ち勝ったのが歴史の始まりでした。いまコロナ禍との戦いでも、ヒト組織は大きな役割を果たしています。

ヒト組織を自ら提供しようという意思を抱いている市民は決して少なくないのですが、どうゆうわけかわが国では先進欧米諸国と比較して移植希望者の要望になかなか応えられず、研究分野や産業分野では海外からの提供に頼っているのが実情です。その実情を分析し、問題点を探り出し、市民参加で問題を解決できないか検討する会をさる5月22日に開きました。

hascrossとして始めてのオンライン会議でしたので不手際もありましたが、医療、倫理・法律、生命科学・工学分野の先生方の出席を得て2時間にわたる熱心な会議となりました。ご参加の先生方ならびに視聴者各位に深く御礼申し上げます。

現状分析では、移植医療や国内生産の件数は少ないが、技術・研究分野での水準はきわめて高い。一方、ヒト組織を取り扱うさまざまな分野を連携する上で求められる倫理原則の確立や法整備の面での遅れが指摘されました。

解決にむけての市民参加のあり方として、①選挙に際して問題の解決についての考えを候補者に問い、回答をご自身の候補者選択の参考とすること、②すでにお考えをお持ちの方には臓器提供意思表示カードに自由な意思表示を行うこと、をhascrossから提案しました。検討会は討論者とあらかじめ登録した視聴者のみによるクローズドな会でしたので、提案への注意点の指摘も含めて市民の皆々様に参考としていただけるところが多々あったと思います。

2回目の討論会を9~10月に開催し、さらに解決策について討論する予定です。ただいま第1回の検討会の討論内容を書き起こしています。当日のプレゼンスライドとあわせて次回の討論会視聴希望者に提供させていただく予定です。本テーマ最終討論会となる第2回は詳細決まり次第、ホームページ等でご案内差し上げます。

(20220618 松村記)

English essay #3

Can Health Science Contribute to War Deterrence?

Most of all readers of this article must have been heartbroken by the news of the Russian invasion of Ukraine over the past few months. Hundreds of thousands of civilians are trapped in cities that have been indiscriminately bombed and destroyed in what can only be described as a genocidal invasion.

In the past, however, “kill-them-all” was not uncommon. There have been repeated killings and revenge at the borders of tribes, ethnic groups, or groups with different religions and beliefs. In the midst of such repeated conflicts, those people have saved the world by learning the wisdom of coexistence, including South African President Nelson Mandela, for example, who endured 27 years of incarceration, overcame his grudges, and broke down racism.

To understand how people like Mandela are born and raised, a psychological hypothesis knows as Maslow’s pyramid, may be remembered, Maslow’s pyramid begins at birth with the world of the mother and infant at the bottom, moves to the world of the family, then to the world of devotion within a limited society (tribe, nation, etc.), and culminates in a spiritual world that seeks self-realization in harmony with the wider environment on the top.

Although Maslow’s hypothesis is more intuitive than scientific, findings that support it are emerging from the life sciences, particularly in the field of epigenetics.

Without going into the details of epigenetics, it can be likened to the study of processes that determine when and how each of the tens of thousands of proteins in the body, as well as the cell types that produce those proteins, such as liver cells and bone cells, are produced, and when they are to be stopped, respectively. These processes are established mostly during embryonic life and childhood, but they are also modified somewhat as a result of life circumstances in adulthood.

The main reality of the epigenetic process is to produce the pattern of chemical modifications of some molecules that occur on the DNA molecules, and we know that this pattern is inherited from cell to cell, if slightly modified, even when a cell undertakes divisions and multiplications throughout the lifetime.

The hypothesis of epigenetic inheritance of mental growth holds that the mental joys and successes of childhood, or conversely the pains of fear and abuse, are inscribed on genes through an epigenetic mechanism, leading to lifelong traits of courage and love, or conversely to temperament such as reticence, self-injury, or aggression.

Records show that both Russia and Ukraine have experienced their share of genocide in the past 100 years. For example, Stalin-era Russia robbed Ukrainian farmers of their produce, resulting in over 3 million deaths from starvation (Holodomor), while the German invasion of Russia during World War II resulted in the deaths of over 20 million people, including many who starved to death as a result of siege operations in cities.

Despite these past experiences, many people in both countries have been raised with love and have developed a noble spirit to overcome their resentments and live in a world of harmony. But there may be some whose spiritual growth has been stifled by an ingrained distrust and fear of each other and who have failed to climb up Maslow’s pyramid, remaining in an undeveloped spiritual world where loyalty to a limited national society is a justification.

This may explain the dominant role of a special sector of the government and the difficulty of even past presidents in reforming the paranoia and cruelty that leads to murdering opponents and obliterating whole cities and population.
In the end, if life sciences can be a deterrent in this battle, it may be to rescue the Ukrainian children who are now in intense pain from the cycle of hatred and raise them to bring about a steady spiritual growth. If there is a postnatal heredity at work there, then not only the social environment, but also the nutritional and pharmaceutical environment must play a role.

It is a long-winded story, but I believe that health science can make a significant contribution in order to break free from the never-ending cycle of war.

Presented by Toshi Matsumura, Ph.D. Health and Science Crossroad (hascross, a science café) Yokohama, Japan
Originally presented in Japanese in hascross Newsletter No.32, 20220403