ショートエッセイ#11「骨髄細胞提供者と池江璃花子さんの未来に幸いあれ!」

競泳界のスーパースター池江璃花子さん。その彼女が白血病となったとのニュース(2019年2月)はどんなにかスポーツファンを震えさせたことでしょう。医療がいかに進歩したからといって、彼女が再びオリンピックに挑戦することがいったいできるだろうか。 そんな怖れをものともせず治療に専心した彼女は18ヶ月に及ぶ闘病生活を果たして昨年8月に競泳会に復帰、そして今年2月には東京オープン競泳会のバタフライ種目で優勝、今年夏の東京オリンピックへの出場さえ取りざたされるほどの回復ぶりです。 同病者にどんなにか大きな希望を与えていることでしょう。 ここで忘れてはならないことは、彼女の回復の裏に、彼女に自分の命の一部である骨髄細胞を譲った陰の主役がいる、ということでしょう。
臓器・組織あるいは細胞を用いる移植治療では、誰かが自分の一部である生きた臓器・組織あるいは細胞を譲ることなくしては成り立ちません。骨髄細胞のみでなく、心、腎などすべての臓器・組織・細胞の移植術は提供者の生命の一部が受取った患者の中で生き続けるものなのですね。 一方で、このようなめざましい医療技術が確立するまでの経過で、大量の人体組織や細胞が研究のために実験室でその役目を果たしているのです。
このように、体外に取り出された臓器、組織あるいは細胞を取扱うとき、どんな規則を守らなければならないのか、法律にその取扱いの原則を明記しておくことが望ましいと考えられますが、残念ながら我が国にはそういった法律がありません。 部分的には死体解剖保存法とか臓器移植法といった法律がありますが、骨髄移植や研究目的のための臓器・組織・細胞の取扱いも含めてということとなると、法律がないのです。
それも原因の一つではないかと思いますが、我が国では医療のため、また研究のために提供される臓器・組織・細胞は、患者や研究者の求めに応ずるにはあまりにも少なく、さまざまな局面で諸外国のお世話になっているのが現状です。 いまの皆様のご生活とあまり関係ない課題とお考えかもしれませんが、一方でいつ何時お世話になるか、あるいはご自分や肉親が臓器組織を提供する立場に立つことになるか分りません。
私ども長く健康科学研究に携わってきたなかで、人体組織・細胞を貴重な研究対象としてきた経験から、現在でもその関わりを大切にしてきており、当店での調査・研究活動に加えております。 いずれの機会に調査・研究の成果を提供させていただきますので、皆々様のご関心を期待しています。
松村記